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一龍斎貞水「自ら習い、盗まなければ身につかない」

2012 年 3 月 5 日

人間国宝の講談師に、一龍斎貞水(いちりゅうさい ていすい)と
いう人がいる。1939年、東京都文京区湯島天神坂下に生まれ、
現在73歳。

「講談は守るべきものと、開拓すべきものがある」という信念から、
独演会を主催し、1959年には「新立体怪談」を創始。私がTVで、
最初に彼を見たのは、この怪談を演じている舞台だった。

別名「怪談の貞水」

私が印象に残っているのは、彼の「自ら習い、盗まなければ身に
つかない」という言葉だ。これは本当にそう思う。そして、仕事に
対する姿勢、心得としての素晴らしい話をされているので、以下
に引用させて頂く。

“最近の若い人はよく、「教えてくれないからできない」なんて言う
けれども、そういう人間は教えたってダメですよ。 カメラだって、
シャッターを押せば写真を写す事はできる。けれどもカメラ、
写真の神髄は、教えようがない。

つまり、教えてくれないんじゃなくて、 自分が何を受け止め、
感じるかでしょう。

だから伝統芸というのは、上の人が後に続く人に、ついてこい
というものではない。後に続く者が先人の芸、技を盗み、自分
の中に取り込んで練り上げてゆく。それが伝統を守る事に
繋がってゆくのだと思います。

僕はたまに、「貞水さんはあまり、後輩にものを教えませんね」
って言われるけど、僕らは教えるんじゃなくて、伝える役なんです。

伝えるという事は、それを受け取ろう、自分の身に先人の技を
刻み込もうとするから伝わっていくもの。教えてくれなきゃ、でき
ないって言ってる人間には、教えたってできませんよ。

実は我々も若い頃、自分の技の拙いのは、先輩が教えないから
だって、愚痴っていた事がありました。そうしたら、師匠に言われ
ましたよ。

「お前達は日頃、いかにも弟子だという顔をして、俺の身の回り
の世話をしているくせに、俺が高座に上がっている時、それを
聴こう、盗もうって気がちっともない。ホッとして遊んでる。

俺が高座に上がっている時は、どんなに体がきつかろうと、
お金を払って見に来て下さっているお客様のために、命懸け
でしゃべってるんだ。その一番肝心な時に、聴いて自分から
習おう、盗もうって気がない。だから、うまくならないんだ」”

技を身につけられるかどうかは、その人に目標があるか
どうかで決まると思う。目標のある人とない人では、同じ
時間を過ごしても、教わった事や見た事などから、吸収
できるものが全く違ってくる。

何事においても、何かを身につけるという事は、時間も
お金も労力もかかる大変な事で、全て同じ過程を必要
とする。「集中」「継続」「意識の在り方」、この3点だ。

一龍斎貞水さんの話を読みながら、美老庵・師匠を思い
出していた。数々の貴重な口伝の教えに、心から感謝
している。良い仕事をして恩返しをしなきゃ。日々精進。

一龍斎貞水さんは、東京都文京区湯島天神坂下に生まれ、今もそこに住んでいるそうだが、ここは湯島天神の男坂。私は台東区谷中に生まれ、空庵事務所は巣鴨にある。どこか共通項を感じるのは、今でも神社仏閣のある下町が大好きだという事。こういう所はいつ見ても、心が和んでホッとするんだよね。私の大好きな原風景だ。

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