2005 年 12 月 22 日 のアーカイブ

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心穏やかに真実を見つめる

2005 年 12 月 22 日

ある森に、一羽の愚かなうさぎがいた。

ある時、うさぎがウトウトと昼寝をしていると、突然、背後の木陰で
「ドーン!」と大きな地響きが起きた。うさぎは驚いて飛び起きた。

「大変だ。地面が割れた。この世の終わりが来た!」

うさぎは、その場から逃げようと駆け出した。

走るうさぎを狐が見つけて、声をかけた。

「どうしたんだい? そんなに慌てて」

「地面が壊れたんだ。早く逃げろ!」

「何、本当か?!」

狐はうさぎの後から駆け出した。

走るうさぎと狐を見て、雀が何事かと問いかけた。

「この世の終わりが来たんだ!」

狐が答えた。雀は慌てて、仲間達にその事を知らせ、皆で一斉に飛び立った。

雀が鹿に、鹿が熊に、熊が虎にという具合に、情報はあっという間に森中
の動物達に伝わり、パニックが起きた。誰もが、他の誰かが逃げる方向へ、
訳もわからないままに駆け出した。

その森には、一頭の利口な獅子がいた。獅子は、森に異変が起きている
事に気づいた。見れば、動物達は一斉に崖っぷちに向けて走り続けている。
このままでは危ないと判断した獅子は、動物達の先頭に回り込むと、一声
大きく吼えた。

その声に腹の底が震え畏れた動物達は、ようやく立ち止まった。

「一体、どうしたというのだ? もう少しで皆、崖から落ちるところだ」

獅子の問いに虎が答えた。

「世界が壊れたんです。だから、安全な所に逃げようと思って」

「何? お前は世界が壊れるところを見たのか?」

「いいえ、私は見ていません。ですが私は、その話を熊から聞いたのです。
熊は心底、恐ろしそうな表情で駆けていたので、私も大変だと思ったのです」

獅子は熊の方を向いて、問うた。

「では、お前が世界の終わりを見たのか?」

「いいえ、私は鹿から聞きました」

こうして話の源を尋ねていくと、最後にうさぎに辿り着いた。

「うさぎよ、お前が地面が割れるところを見たのか?」

「見てはいませんが、とても大きな音がすぐそばで鳴ったのです。
あれは、世界の壊れる音に間違いありません」

「では、私をその音の鳴った場所に連れて行くが良い」

うさぎは獅子をその場所に案内した。動物達もその後に続いた。

うさぎが昼寝をしていた場所は、地面が割れるでもなく、火が燃え盛るでも
なく、普段通りの森の風景だった。獅子が辺りを見回すと、一本の木の下に、
大きな椰子の実が落ちていた。うさぎの聞いた音は、椰子の実が地面に落
下した音だったのだ。

獅子は動物達に向けて語りかけた。

「お前達よ、真実を確かめる事なく、いたずらに心を波立てて、誤った行動を
するのは、愚かな事である。心穏やかにありのままの真実を見つめてこそ、
正しい行動を取る事ができるのだ」
20051222

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