2001 年 10 月 16 日 のアーカイブ

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アフガニスタン系米国女性ライターMir Tamin Ansaryのささやかな意見

2001 年 10 月 16 日

あれから、私はもう、何度聞いただろう。「アフガニスタンを爆撃して、

石器時代に戻してしまえ!」等という台詞。ロン・オーウェンが今日、

ラジオで言ったこの台詞。言い換えれば、「あの凶行には、何の関わり

もない、罪のない人々を殺せ」と言っているようなものだ。

「我々は、戦争状態にあるんだ。だから、2次的なダメージもやむを得ない。

今の我々に、それ以外の何ができるっていうんだ?」テレビでは、識者達

がディスカッションしている。誰かが言う。「我々は、何がなされるべきか

という目標、ゴールを持っている」。私はアメリカ合衆国に暮らして、35年

以上になる。しかしながら、私はアフガニスタン出身だ。これまで故国で

起こっている事を、常に追いながら、生きてきた私にとって、今回の出来事は、

実に耐え難い。そんな私が、今回の事態をどのように受け止めているか、他の

人々にも知ってもらいたく、ここに考えを記したい。断っておくが、私もまた、

タリバーンやオサマ・ビン・ラディンを嫌悪する人間の一人だ。今回のニュー

ヨークで起こった惨劇について、彼らに責任があるだろう事は、疑いようのない

事実だと私も思っている。私自身、あんな怪物のような奴らは、何らかの制裁を

受けるべきだと思っている。でも、これだけは理解してほしい。タリバーンや

ビン・ラディンは、イコール、アフガニスタンではない。むろん、アフガニ

スタンの政府でもない。1997年、アフガニスタンは、タリバーンという精神

異常な狂信者達によって、乗っ取られたのだ。ビン・ラディンは、巧妙な計画

を操る政治犯なのだ。タリバーンを思う時、ナチスを思ってほしい。

ビン・ラディンを思う時、ヒットラーを思ってほしい。そして「アフガニスタン

の人々」を思う時、どうか「強制収容所に送られたユダヤ人達」を思ってほしい。

アフガニスタンの一般人は、今回の凶行に際して、何一つ関わっていないのだ。

関わっていないどころか、彼らは、犯人どもの凶行の、言わば最初の被害者である。

アフガニスタンの人々は、もしも誰かが、自国を巣くっている国際的な暴漢どもを

一掃し、タリバーンを排除してくれたなら、きっと大喜びするに違いない。

誰かが尋ねる。なぜ、アフガニスタンの人々は立ち上がって、タリバーン政権を

打倒しないのかと。答えよう。彼らは飢え、傷つき、疲弊し、苦しみのうちにあり、

立ち向かう力など、持ち合わせていないのだ。数年前の国連レポートによれば、

経済が破綻し、食糧がないアフガニスタンという国には、50万人もの不具なる

子供達がいるという。そして、数百万人の未亡人がいる。タリバーン達は、

この未亡人達を生きたまま、無数の墓に埋葬した。旧ソビエトにより、土地には

地雷がばらまかれ、農地はことごとく破壊された。これらがなぜ、アフガニスタン

の人達に、タリバーンを打倒する力がないかという理由の一つだ。

「アフガニスタンを爆撃して、石器時代に戻してしまえ!」との呼びかけに対して、

言わせてもらうなら、もうすでに、それはなされている。すでに、旧ソビエトが、

やってくれているのだ。アフガニスタンに苦痛を与えろ? もう、彼らはすでに

大いなる苦悩を体験している。彼らの家を潰せ? もう潰されてる。学校を瓦礫

の山にしてしまえ? もう瓦礫だ。病院を全滅させろ? すでにない。彼らのイン

フラを破壊しろ? 医薬品の供給や医療機関をなくしてしまえ? 全て遅い。

もうすでに、誰かがみんなやってしまったんだ。新しく落とされる爆弾は、

かつての爆弾の破片をかき混ぜるだけだ。タリバーンだけを捕らえる事はできるか?

それはあり得ない。現在のアフガニスタンでは、タリバーンだけが「食べる」事が

でき、タリバーンだけが「移動」できるからだ。聞くところによると、彼らはすでに、

逃げて隠れている。新しく落とされる爆弾は、多分、車椅子もなく、逃げる事のでき

ない、不具なる孤児達の上に降りかかる事になるだろう。カブールに飛来し、落とさ

れるであろう爆弾は、決してこの事態の加害者達に、命中する事はない。

一度、タリバーンによってレイプされた人々を、改めてレイプさせるだけの事だ。

それならば、どうすればいいんだ? 私は、恐怖に打ちひしがれながらもなお、今、

語りたい。ビン・ラディンを捕らえる方法は、唯一、地上兵だけしかないという事だ。

アメリカ兵の死について、考えてみよう。アフガニスタンを抜け、ビン・ラディンの

隠れ家に到着するまでに、死亡するであろうアメリカ兵の数は、相当数に上る事に

なるだろう。「何をなすべきか、わかっている」と言う人々の多くは、できるだけ

多くの人を殺す事が肝心だという観点で考えている。無実の人々を殺す事について、

道徳的な良心の呵責を忘れている。しかし、殺す事ではなく、死ぬ事が目的である事

を忘れている。なぜなら、軍隊をアフガニスタンに派遣するには、パキスタンを通過

しなければならないからだ。彼らは、我々を受け入れてくれるだろうか? 否、不可能だ。

そうなると、まずは、パキスタンを打破しなければならない。そうなった時、他のイス

ラム諸国は、その事態をただ傍観するに留まるだろうか? もう、おわかりだろう。

我々は、イスラム国家と西側諸国との世界的な戦いの、ただ中に置かれるのだ。

これこそが、ビン・ラディンの仕組んだ、彼がやりたい事なのだ。だからこそ、彼は

今回のテロを遂行した。彼のスピーチや声明を読んでほしい。もちろん、「イスラム」

はそのような存在ではない。イスラムとは、イスラム教徒とイスラム教の国々を指し、

政治的な存在ではないのである。ビン・ラディンは、自分が戦争を始めたなら、イスラム

諸国を組織し、操る事ができると信じているのだ。また彼は、イスラムが西側世界を

打ち負かすと、絶対的に信じているのだ。実にばかばかしく思える事だが、彼はもしも、

イスラム世界と西側諸国との対決が始まったとしたら、膨大な数の兵隊を機動するだろう。

西側諸国がイスラムの国々に対して、大虐殺を展開したとしても、少なくともイスラム兵

には命以外、何も失うものがないのだ。ビン・ラディンの思惑は、多分間違っていて、

最終的には、西側諸国の勝利に終わるだろう。しかし、そこに辿り着くまでに、何年もの

月日を要し、また数多くの敵ばかりでなく、味方の命も奪う事になるだろう。誰がそんな

事態を望むだろう? ビン・ラディンは望んでいる。他には? 私は解決策を持たない。

しかし、災難や飢えは、テロリズムを育てる土壌であると考えている。ビン・ラディンと

彼の仲間は、そのような土壌を作らせるために、私達を引き込みたがっている。

そして、彼らや彼らと同類の人々が栄えるのだ。私達は、彼にそんな事はさせない。

これが私のささやかな意見です。

/Mir Tamin Ansary(アフガニスタン系米国女性ライター。彼女は刺繍や手仕事によるアフガンの女性自立支援を、10年にわたって続けてきた)

P.S “空庵だより”の読者の方、この手記を送って下さって、どうもありがとうございます。また、最後まで読んで下さった新たな読者の方も、どうもありがとうございました。

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